落花狼藉 5
次の日の夜 4人は ジープに乗って、宿のある街から 少し離れたところにある
工場主の屋敷の前に来ていた。
「ジープ、ここで 待っていてください。
帰りはも一緒ですから、よろしくお願いしますね。」
ジープから降りた八戒が、そう 話しかけた。
「キュ〜。」了解の返事をするジープ。
この屋敷の以前の主人は、趣味が良かったらしくシンプルだがいい造りの建物だった。
「僕たちの戦闘で、壊すのは もったいないような気がしますね。」
八戒は 屋敷全体を見ながら のん気とも取れるような発言をした。
「ん?ん〜俺の趣味じゃねぇから、どうでもいいけどさ。」
悟浄は 淡々として関心がなさそうに、八戒の発言に応答する。
「いくぞ。」
くわえていた煙草を捨て 足で踏み消して、三蔵は3人に声をかけた。
それぞれが 一瞬鋭く瞳を光らせて、屋敷の門扉を くぐった。
玄関のドアを開けると、不気味なくらい静まり返った邸内。
「いかにも 待ち構えてますって感じですね。」八戒が 口にする。
「は どこにいるのかな〜、早く行ってあげないと・・・・なぁ、三蔵。」
悟空が言うように のところへ早く行きたいが、そういうわけにも いかないだろうと
悟空以外の3人は 思った。
「三蔵、一番妖気の強いところは どこですか?
親玉の居るそこに が居る可能性が 高いと思いますが。」
八戒は とにかく 救出が、最重要だと 思っているらしいく、三蔵を促した。
「猿、お姫さんの気は 感じんのか?」悟浄は の気に敏感な 悟空に尋ねる。
「ん〜だめだ、の気配は わかんねぇよ。」悟空は 屋敷内を 探るが、の気配が無い。
「まじぃな、気を失ってるんじゃ 呼んでも無駄じゃん。捜すのが・・・・」
「来る!」それを さえぎって 悟空が 叫んだ。
階段の途中から 沸いて出たように 妖怪が現れた。
階段を降りてきたのでも どこからか 飛んできたのでもなく、音もなく 現れたのだ。
4人は 攻撃の構えをとる。
「ようこそ 三蔵一行様。お越し頂き 光栄ですね。
ご招待に付いている景品が 気に入られたのですか? その肩の経文をいただけたら、
お姫様のいるところを 教えて差し上げますよ。」
妖怪が うれしそうに 笑って、三蔵達にそう言った。
「を 経文と交換の景品にした覚えはないがな。」憎々しげに 三蔵は 吐き捨てた。
「蜃気さんとおしゃいましたか、に 何もしていないでしょうね。
勝手に 連れ去っておいて、景品にするなんて 許せませんよ。」八戒は 手のひらの上に
光の弾を 作りながら、蜃気を 睨んで言った。
「そうだぞ!!そのせいで 俺と八戒が、すごく心配したんだからな〜!を 出せ!」
悟空は 如意棒を振りかざして、蜃気の頭上から打ち込んだ。
しかし それは むなしく空を切り 階段を壊しただけになった。
そこにいたはずの 奴の姿はなく、4人は驚きを隠せない。
悟空のスピードは そこいらの妖怪が、消えようとする前に 相手を殴打するほどに早い。
生半可な速さではないのだ。それを交わして 姿を消すのは、尋常ではない。
「さあ、早く経文を渡さないと、彼女の命にかかわるかもしれませんよ。」次に現れた場所で、
蜃気は 三蔵達の不安をあおるように 言う。
「経文は わたさねぇ、おまえを倒して を助ける。」三蔵は そう宣告した。
「厄介な相手ですね。なにか策をとらないと・・・・、三蔵?」八戒は全員の思いを口にした。
その間にも 悟空と蜃気の イタチごっこは、続けられている。
あちこちに穴が開き壁が崩れているのは、悟空がまだ一撃も蜃気に当てていない証だ。
悟空がやってもダメなものは、自分たちは到底及ばない。
なんだかんだ言っても、一番俊敏なのは悟空なのだ。
「次に奴が現れる場所を 限定し、そこへ 八戒の気孔と 俺の弾を撃てば、
奴に当てられるかも知れねぇ。両方を 同時に交わすのは 無理だろ。」
2人の動きを見ていた、三蔵が 提案した。
八戒は それに賛成という意味で 頷くと、「目標物を あの 大きな時計にしましょう。
いいですね? 悟浄は時計の正面に回ってください。
時計の位置以外に奴が現れないようにあそこだけを はずして 錫杖を振ってください。
僕が右、三蔵は左にお願いします。
悟空の次の一撃の後に、動いてください。」八戒の指示に、悟空を含めた3人が頷く。
悟空が階段の上の方で、また空振りをさせられた・・・・と同時に
3人は指示された位置に動き、
時計に向けて悟浄は錫杖を、八戒は気孔を三蔵は弾丸を発した。
ガゥン、ガゥン、ガゥン、ガゥン・・・・
ドカァーン・・・・・・・
辺りが白くなるほどの 衝撃が そこに集中した。
「当たったか?」悟浄が つぶやいたその時、「うっ、・・・・・・くそぅ・・・おまえら
個人攻撃しか出来ないはずでは、ないのか?」蜃気の辛そうな声が聞こえてきた。
視界が利くようになると、時計のあったそこに血を流しながらうずくまる蜃気を見つける。
致命傷を 与えたらしく、もう 攻撃することも出来ないらしい。
「いつもは協力する必要もその気もないんですがね〜、
僕たちのためになら、自分の不利になるようなことにも あえて挑むんですよ。
貴方の失敗は、をさらったことですよ。
僕たちを 本気で怒らせるなんて、愚の骨頂ですね!」八戒は、そう言い捨てた。
「あの薬は 何に使うんだ? どこへ運んでいる?」矢継ぎ早に質問する三蔵。
「お・・・吠登城への貢物、妖怪の滋養強壮薬だ。」質問にやけに素直に答える 蜃気。
「は どこだ?」三蔵は いくらも持たないであろう 蜃気の意識を考えて、簡潔に尋ねた。
その問いに 蜃気の土色を帯びてきた顔に、残忍な笑みが浮かんだ。
「あの女が 工場で出来る薬に弱いのは、偵察に来た時にわかっていたからな、
に・・・逃げられないように その薬タンクに 浸かってもらっている。
い・・何時まで 持つかな ふっふっ・・・・・」
ガゥン・・・・・黙らせるように 止めを刺す 三蔵。
「おい、工場へ行くぞ」三蔵が 振り向きざまに 言う。
排水に手が触れただけでも あんなに衰弱したが、全身を 原液に浸かっているという事に、
4人の顔色が 変わった。
停めておいたジープに飛び乗ると、「飛ばしますよ!!」八戒が アクセルを踏みながら 言った。
((((間に合ってくれ!!! ))))
4人の想いは 1つだった。
工場に着くと 薬の貯蔵タンクを 急いで調べる。
いくつかある1つに、天井から吊るされる形で縛られたまま首まで薬の原液に浸かっている
意識のない を、発見した。
まだ 入れられてから それほど経っていないのか、息はしっかりしていたし、脈も強かった。
4人は急いで をそこから出すと、空の風呂くらいの大きさの水槽に
ぬるい湯を出しっぱなしにして、をその中に入れた。
身体を温めながら、毒素を抜くにはそれが一番だろうということでそうしてみた。
冷え切った身体に いきなり熱いお湯は 良くない。
八戒は 少しづつ お湯の温度を上げる。の身体からは ずっと 衣類に含まれていた
薬の原液が 染み出してきていて、水槽からあふれているお湯は、
まだ 透明にはなっていなかった。
「まずいですね、衣類に染み込んだ分の薬が 多すぎて
これでは 自身から毒素が 抜けるまでに、時間が掛かり過ぎてしまいます。」
八戒は 渋い顔で 三蔵に言った。
「三蔵、の衣類を取ってください。
どれだけでも早く、を楽にしてあげないと・・・・・、貴方以外のものが脱がせたのでは、
後から それを知ったが 気の毒です。
誰かが を見てしまうのであれば それは 三蔵、貴方がいいと思います。
僕たちは を包むシーツや毛布を 捜してきますから・・・・。
悟浄、悟空、そういうわけですから、さ 行きますよ」八戒は 三蔵の返事も聞かないで、
2人を連れて その場から 立ち去った。
三蔵は 流れる水に 吸殻を捨てると、法衣を上だけ脱いで
作業用の肩口まである長手袋を腕にはめて、水中のの衣類を 脱がせ始めた。
どうしても 濡れていて 脱がせられないものは、仕方がないので 破り捨てる。
そして 徐々に の美しく 滑らかな 白い柔肌が 見えてきた。
八戒が なぜ自分に やらせたのか 最初は不思議に思っていた三蔵だったが、
相手が なだけに、その行為は ひどく扇情的なものになり 三蔵を煽る。
こんなこと 自分以外の男が、にしたら その相手を 殺したくなるだろう・・・と、三蔵は思った。
八戒は のためだけでなく 自分や悟浄では への想いが抑えられなくなる事を恐れて、
三蔵に やらせたのだという事を、理解した三蔵だった。
の下着まで 薬は染み込んでいて、床に投げ捨てた衣類は もう着られないだろう。
水槽には 何も着けていないだけになったので、いい湯加減にしてあるお湯は、
透明になり の全身を 三蔵の目に さらしていた。
お湯で温まってきたのか、頬はうっすらと染まり の美しさに 華を添えている。
三蔵は 見れば見るほど辛いのに、目が離せないまま たたずんでいた。
そこへ シーツと毛布を見つけた八戒が戻ってきた。
三蔵の様子を見て 八戒は やはり自分が心配していた通りだったと 思った。
「三蔵、の様子はどうですか?」水槽から 距離を取って 声をかける。
三蔵は 振り返り 八戒のいるところまで来ると、シーツと毛布を受け取った。
「身体は 温まってきたようだ。衣類を取ったから お湯も透明になった。
あいつらは どうした?」うるさい2人の事を 尋ねる三蔵。
「ええ、ジープのところへ行かせました。のその姿を 見せるわけには いきませんから・・・・。
三蔵 1人で のこと包んでくれませんか、僕も 見ないほうが いいでしょう。」
八戒は 踵を返すと、「ジープで 待っています。」と そこから 出て行った。
乾いている床に 毛布を広げ、その上にシーツを重ねて広げると、
手袋を外した腕に、を抱えて その上に横たえた。
シーツで全身を包み、それを さらに毛布で包んで 自分も法衣を着なおし、
また を抱きかかえると、出口に向かって 歩き出した。
は 衰弱してはいるが、意識がないだけで 命に別状はないようだ。
湯に入れたために 抱えたは 暖かくて、三蔵は その暖かさに 安心感を覚えた。
眠る の その唇に 自分の頬を寄せ の息を感じる、生きているからこその呼吸、
そっと そのまま 唇を寄せて 優しく 口付けをする 三蔵。
その唇は閉じたままで 答えては来ないが 自分の胸に 帰ってきた愛しい人に、
三蔵は わずかな笑みを 浮かべた。
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